1種・2種・3種・4種ケレンの違いと対応部材 塗装工事における「ケレン」とは、塗装面に対して施す素地調整の一手法であり、日本産業規格(JIS)に準拠して1種から4種まで分類されています。ケレンの種別ごとに目的や対象部材が異なるため、施工内容を正しく理解することが非常に重要です。
1種ケレンは、通称「ブラスト処理」と呼ばれ、金属表面に対してサンドブラストやショットブラストなどで旧塗膜やさびを完全に除去し、白鋼面に近い状態まで仕上げる高精度の素地調整です。主に橋梁や造船といった重防食が求められる構造物に用いられます。
2種ケレンは、電動工具(グラインダーやディスクサンダー)などを使って、旧塗膜やさびを80%程度除去する処理です。一般的な鋼製建材や鉄骨の外壁塗装、戸建て住宅の鉄部などで多く使用されており、「二種ケレン」という表記が見積書にもよく登場します。
3種ケレンは、手工具やワイヤーブラシなどを用いて、軽度な浮きさびや汚れを取り除く軽微な素地調整です。メンテナンスや部分補修、予算を抑えた簡易施工に向いています。
4種ケレンは、洗浄や脱脂のみといった最低限の処理で、外壁塗装で塗膜の劣化が少ない場合や、再塗装までのインターバルが短い案件に適用されます。これらのケレン種別はJIS K 5970に準じた定義があり、実際の現場では素材の状態や環境要因、予算、求められる耐久年数に応じて使い分けられます。
各ケレン種別の比較
ケレン種別
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主な施工方法
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適用部材
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旧塗膜除去率
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対象工事例
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1種
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サンドブラスト
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橋梁・造船鉄骨
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95~100%
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重防食、腐食リスクの高い構造物
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2種
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電動工具ケレン
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鉄骨・鋼製外装材
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約80%
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戸建外壁、鉄部塗装
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3種
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手工具・ワイヤーブラシ
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手すり・軽鉄部材
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約50%
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メンテナンス補修
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4種
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洗浄・脱脂
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塗膜劣化の少ない下地
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10~30%
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再塗装、外壁補修
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この表を参考にすることで、各種ケレンの施工内容と適用範囲を明確に把握でき、見積もり時の適正判断にもつながります。素地調整の精度が仕上がりに直結する以上、安易なコストダウンのためにケレン種別を妥協することは避けたいものです。
ISO 8501-1/8503-1/ST2/SA2.5などの基準解説 日本のJIS規格に加え、国際的にはISO(国際標準化機構)の規格が素地調整において広く利用されています。特にISO 8501-1は、鋼材表面の清浄度に関する国際基準であり、Sa2、Sa2.5、Sa3などの等級で評価されます。例えば、Sa2.5は旧塗膜・さび・汚れのほとんどを完全に除去した状態を示し、防錆性能が最も高い仕上がりとなります。これは、日本の1種ケレン相当とされることが多く、公共工事や大規模改修などではSa2.5が標準指定されることもあります。
一方、ISO STシリーズ(ST2、ST3)は手工具や電動工具による処理レベルを示すもので、ST3はST2よりも深く研磨された状態を意味します。これらは日本でいうところの2種・3種ケレンに該当し、金属素地の状態に応じて使い分けられています。また、ISO 8503-1は、表面粗さの規格を定めたものであり、塗料の密着性を確保するために必要な「荒し(あらし)」処理の程度を評価する際に活用されます。
ISO規格を導入している現場では、素地調整の達成レベルを目視だけでなく、粗さ比較板や表面プロファイルゲージなどの専用ツールで計測し、客観的な基準に基づく品質管理が徹底されています。これは特に、塗膜の保証期間が10年以上に及ぶような高耐久仕様の塗装工事において欠かせない工程です。業者によっては、ISO準拠を明記して品質保証書を発行するケースもあり、発注者側もその点を意識して業者選定を行うことが推奨されます。
C種・G-Cなど現場で使われる特殊表記と対応方法 実際の工事現場や見積書、仕様書においては、「C種ケレン」「G-C」など、JISやISOに準拠していない独自の分類が使用されていることがあります。これらは現場慣習や企業内の内部ルールに基づいて使用されているため、正しい理解がないと誤解を招く恐れがあります。
たとえば、「C種ケレン」とは、さびの発生箇所や旧塗膜の浮き部分のみを対象に部分的に除去する作業を指すことが多く、JISでいうところの3種または4種ケレンに近い対応です。「G-C」は「グラインダーケレン-C種」の略とされ、電動工具による限定的な素地調整を意味する場合がありますが、その仕様や範囲は業者によって微妙に異なる場合もあります。
こうした独自表記が見積書や現場指示書に含まれている場合は、施工対象、使用工具、処理面積、対象部材、施工品質などを詳細に確認することが重要です。業者間で用語の認識に差異があったために、C種ケレンの名目で見積もられていた作業が、実際には最低限の洗浄作業のみだったというトラブルも報告されています。
専門用語や略称は便利である反面、曖昧な理解に基づいて判断してしまうと、施工品質に大きな差が生まれてしまう恐れがあります。したがって、発注者側としても見積書や仕様書を受け取った段階で不明瞭な用語があれば、積極的に業者へ説明を求め、施工前に合意を形成しておくことが、納得感のある工事につながります。素地調整のような見えにくい工程ほど、用語の意味を正確に把握することで、失敗のない塗装工事が実現できるのです。